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アイカロス

2017

アイカロス

Icarus

2017·映画·7.8

あらすじ

映画製作者ブライアン・フォーゲルが自転車レースでのドーピング実態を調べるため、ロシアのドーピング研究者グリゴリー・ロドチェンコフ博士に協力を仰ぐ。しかし調査は予想を超えた展開を見せ、ロシア国家ぐるみのドーピング組織の実態が明らかになっていく。

AIレビュー

ブライアン・フォーゲルはもともと、自転車レースにおけるドーピングがどれほど容易かを実証するための個人実験を撮影しようとしていた。プロでもないアマチュア選手が禁止薬物を使えばどれほど成績が向上するか。その目的でロシアのアンチドーピング機関の内部に携わる科学者グリゴリー・ロドチェンコフ博士にコンタクトしたとき、誰も──フォーゲル自身でさえ──これほど巨大な隠蔽工作の入口に立っているとは思っていなかった。 映画はのどかな個人実験ドキュメンタリーとして始まる。フォーゲルがロドチェンコフ博士と Skype でやり取りしながら、投与のスケジュールや隠し方を相談する場面には笑いさえある。博士は陽気で知的、アメリカ文化に強い関心を持つユニークな人物として描かれる。しかし中盤以降、物語は急転する。ロシアのドーピング疑惑がIOCや各国メディアで報じられ始め、ロドチェンコフ博士の周辺で不審な出来事が相次ぎ、ついに彼はアメリカに亡命を求める。 ここからのドキュメンタリーとしてのスケールの変容が圧倒的だ。個人実験の記録が、2014年ソチ五輪における組織的なドーピング隠蔽──ロシア国家主導でサンプルのすり替えが行われていたという告発──の証言フィルムになる。フォーゲルのカメラは証人としてその告発の現場に立ち会い続け、博士との信頼関係が深まるにつれて映画は友情のドキュメントでもあるという二重構造を帯びてくる。 見る者が問われるのは「スポーツの正直さとは何か」だけではない。国家ぐるみの嘘が露見するとき、個人はどこに身を置くのか。博士の決断は英雄的か無謀か。ロドチェンコフ本人が前半まで「システムの共犯者」として機能していた事実を映画は隠さない。この複雑さが、単純な告発ドキュメンタリーを超えた奥行きを与えている。 映画の構造としても特異な点がある。フォーゲルはカメラの前に立ちながら撮影者でもあり、博士の告発の証人でもある。この二重の立場が映画に独特の緊張感をもたらす。「自分が撮影していたものが国際的な陰謀の証拠になる」という状況の重さを、彼は映画を通じて処理していく。 ロドチェンコフ博士の亡命後の孤独も映画に刻まれている。かつての同僚が次々と謎の死を遂げ、証人保護プログラムの下で生きる博士の孤立。映画はその個人的な代償を人道的な視線で追う。 スポーツの純粋性への信頼と国際政治の泥の間で引き裂かれた一人の科学者の証言として、この映画はオリンピックの記録史に残る一本だ。Netflixで製作・配信され、2018年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞している。スポーツファンはもちろん、政治と権力の機能に関心を持つ全ての人に見てほしい作品。エンタメとしての引力と、現実の深刻さの両方が最後まで持続する稀有な力作。 この映画の傑出した点は、個人的な実験ドキュメンタリーとして出発した物語が、偶然の出会いによってロシア国家ドーピングスキャンダルという史上最大規模の告発へと変貌する予測不可能な展開にある。ブライアン・フォーゲル監督とグリゴリー・ロドチェンコフの国境を越えた友情は、権力と腐敗に立ち向かる個人の勇気を体現している。ロシアがソチ五輪において国家的に実施していたドーピング隠蔽工作は、スポーツの公正さという根幹的な価値への問いを突きつける。 告発者ロドチェンコフが直面した命の危険と、それでも真実を語ることを選んだ決断は、現代における内部告発者問題の本質を照らし出す。アメリカへの亡命後もロシア当局の脅威に晒され続ける彼の姿は、権威主義国家が情報をいかに統制しようとするかを生々しく示している。アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞は、本作が娯楽を超えた社会的意義を持つことの証明であり、スポーツドキュメンタリーの歴史に刻まれる傑作として後世まで語り継がれる一本だ。

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実話スポーツ陰謀ドーピング衝撃の展開

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