🎬
アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル
2017
AIレビュー
マーゴット・ロビーが演じるトーニャ・ハーディングという実在の人物を通じて、アメリカンドリームの裏側と階級差別の実態を鋭く描いた傑作だ。クレイグ・ガレスピー監督はモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)スタイルを採用し、複数の視点から語られる「真実」の相対性を巧みに演出している。アリソン・ジャニーがアカデミー賞助演女優賞を受賞し、マーゴット・ロビーも主演女優賞にノミネートされた。2018年最高の伝記映画として広く認められている。
この映画の核心にあるのは、「誰が語るかによって真実が変わる」という問いだ。同じ出来事を母親・ラヴォナ、夫・ジェフ・ギルーリー(セバスチャン・スタン)、トーニャ自身がそれぞれ全く異なる視点で語り、観客はどれが本当かを判断できないまま物語が進む。「事実に基づくが、トーニャの記憶も母親の記憶もどちらも正確ではない」という但し書きが冒頭に置かれることで、観客は最初から「どこまでが真実か」という問いを抱いたまま見続けることになる。このメタ的な構造は、1990年代に過熱したメディアスクラムがいかに真実を歪めたかというテーマと完璧に共鳴している。
マーゴット・ロビーの演技は彼女のキャリア最高峰のひとつだ。スケートシーンを含む身体的な要求と、キャラクターの内面的な複雑さを同時に担った彼女の演技は、怒り・脆さ・誇り・絶望が混在するトーニャの人物像を立体的に描き出す。1991年全米選手権で女性として史上初めてトリプルアクセルを成功させた選手が、なぜここまで排除されたのかという問いへの怒りが演技全体に宿っている。特に1994年リレハンメル五輪でスケート靴の紐が切れるという悲劇に直面した瞬間の感情表現は、アメリカ映画史に残る名演技として記憶されるだろう。
アリソン・ジャニーが演じる母親ラヴォナは、映画史上最もシニカルで毒のある「母親」キャラクターのひとつだ。毛皮のコートを纏いタバコを燻らせながら娘を「飴と鞭」で追い立てるラヴォナは、個人の悪意を超えた「社会が女性に何を求めるか」という問いの体現として機能している。彼女を「悪役」として単純に切り捨てることができないのは、彼女自身もまた社会の圧力の中で生きた人物として描かれているからだ。アカデミー賞の評価は彼女のキャリアで最大の仕事を正当に認めたものだ。
本作が最も鋭く批判しているのは、スポーツ界のダブルスタンダードだ。労働者階級の「下品な」スタイルを持つトーニャは、どれほど高い技術を持っていても「アメリカのイメージを体現しない」として排除された。フィギュアスケートという競技が技術だけでなく「イメージ」を評価するという構造的な問題を、この映画は正面から告発している。「能力による平等」というスポーツの理念が、実際には階級とイメージによって歪められているという批判は、今日にも切実に響く。
1990年代のナンシー・ケリガン膝蓋骨攻撃事件(1994年)を知っている世代には、知っているはずの「あの事件」がまったく違う視点から見えてくる体験を提供してくれる。知らない世代には、メディアが人一人の人生をどう破壊したかという現代にも通じる普遍的な物語として刺さる。実話映画の最高傑作のひとつとして、広く推薦したい一本だ。字幕版での鑑賞が推奨されるが、会話のテンポが良いため吹替版も楽しめる。
視聴ガイドとして、フィギュアスケートに関心がない人でも人間ドラマとして存分に楽しめる一本だ。1990年代のアメリカのスポーツ文化と階級差別の関係を知っていると、より深みが増す。字幕版での鑑賞を推奨するが、吹替版も会話のテンポを損なわない仕上がりだ。伝記映画の傑作として広く推薦したい一本だ。
どこで見れる?(見放題)
タグ
実話ベースフィギュアスケート階級差別モキュメンタリー
