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ウィッチ
2015
AIレビュー
ロバート・エガース監督のデビュー作にして、ホラー映画のあり方を問い直した問題作だ。2015年のサンダンス映画祭で監督賞を受賞し、「スロー・バーン・ホラー(じわじわ来る恐怖)」というジャンルを世界的に認知させた本作は、現代のジャンプスケアに頼ったホラーへのアンチテーゼとして、17世紀ニューイングランドの空気感そのものを恐怖の装置として機能させるという野心的な試みに成功した。A24配給作品として、後に続く「ヘレディタリー」「ミッドサマー」とともに「A24ホラー」というブランドを確立した先駆的な作品でもある。
この映画の恐ろしさは「実際に何が起きているのか」が最後まで曖昧であることだ。清教徒のコミュニティを追放された一家が森の外れに住み始め、次第に恐ろしい出来事が起き始める。魔女は本当に存在するのか、それとも孤立と飢えが生み出した集団的妄想なのか——その答えを意図的に保留することで、17世紀の人々が感じた「神は沈黙している、ならばこの世界を支配するのは悪魔ではないか」という恐怖が、観客の中でじわじわと育っていく。超自然的な何かが起きていると確信できるシーンと、これは家族の集団ヒステリーかもしれないと思わせるシーンが共存し、鑑賞後も議論が続く構造になっている。
歴史的な正確さへのこだわりが際立っている。当時の英語(アーリー・モダン・イングリッシュ)を用いた台詞は実際の17世紀のテキストから採取され、魔女裁判の記録をもとにした細部の設定、農村生活の過酷さが積み重なることで、時代への没入感が生まれる。現代人が当たり前に持っている「合理的な世界観」を脱ぎ捨て、迷信と信仰が混在する中世的な意識で鑑賞することを強いられる体験は唯一無二だ。この徹底的なリサーチこそがエガース監督の真骨頂で、次作「ライトハウス」(2019)でも同様のアプローチが踏襲されている。
アニャ・テイラー=ジョイの映画デビュー作でもある。この後「クイーンズ・ギャンビット」「ラストナイト・イン・ソーホー」で世界的スターとなる彼女の演技の原点がここにある。敬虔な信仰を持ちながら父権的な清教徒社会で抑圧されている少女トマシンの内側の爆発を、彼女の目が語り続ける。ラストシーンに向かうにつれ積み上がる「解放」の感覚は、恐ろしさと同時に奇妙な共感を呼び起こす。このキャラクターをフェミニスト的な抑圧からの解放の物語として読む解釈が広く支持されており、ホラー映画の文脈を超えたジェンダー論的な議論の対象ともなっている。
黒ヤギのブラック・フィリップというキャラクターが本作のもう一つの「スター」だ。平静を装った普通のヤギとして始まりながら、終盤に向けての変容が映画全体の不気味さを象徴している。「ブラック・フィリップと契約しろ」という台詞は、映画ファンの間でカルト的なフレーズとして語り継がれている。
視聴ガイドとして「怖い映画」というよりは「不気味さと緊張が持続する映画」として臨むべき作品だ。ジャンプスケアを求める人には向かないが、雰囲気で圧倒されるホラーや心理的な恐怖が好きな人には最高の一本になる。「ヘレディタリー/継承」(2018)や「ミッドサマー」(2019)が好きな人、または歴史的なリアリズムに興味がある人に特に推薦したい。エガース監督の次作「ライトハウス」も同様のアプローチで、海辺の灯台に閉じ込められた二人の男の狂気を描いた傑作だ。
「ウィッチ」から始まりエガースの「ノスフェラトゥ」(2024年)まで、歴史的リアリズムと心理的恐怖を組み合わせた彼の作品群は一貫した美学を持つ。本作はその出発点として、見るべき一本だ。
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